新潟市の潟で確認されている魚類
越後平野にはかつて膨大な数の潟湖や砂丘湖が存在し、川や海とつながった広大な水系ネットワークを形成していましたが、その多くが干拓によって消失しました。現在新潟市内に残っている主な湖沼は16ヶ所ですが、すべて水門によって川と仕切られています。
これまで現地調査や聞き取り調査、過去の記録により、70種近い魚類が確認されていますが、海と往来する回遊魚や海産魚はほとんど見られなくなりました。かつては生息していなかった外来魚が増える一方、生活力の弱い多くの在来魚が姿を消しています。
このコーナーでは西蒲区にあった鎧潟(1968年干拓で消失)の記録を含め、これまで記録された全魚種を紹介します。説明の後に大まかに、◎普通に見られる ○数は少ないが生息 △稀だが近年確認記録がある ▲現在確認できない の区分を表示。大きさは口先から尾の先までの全長で記します。
希少種:新潟市レッドデータブック掲載種
- EX(絶滅)
- EW(野生絶滅)
- EN(絶滅危惧Ⅰ類)
- VU(絶滅危惧Ⅱ類)
- NT(準絶滅危惧)
- LP(地域個体群)
外来種:人為的に持ち込まれた種
- 国内外来種:国内他地域原産の外来種
- 国外外来種:国外原産の外来種
- 特定外来生物:特定(外来生物法)
- 重点対策外来種:特定(生態系被害防止外来種リスト)
- その他の総合対策外来種:その他(生態系被害防止外来種リスト)
海洋との関わりがある魚種(下記のとおり区別)
- 回遊:回遊魚
- 汽・海:汽水・海水魚
スナヤツメ類(ヤツメウナギ科)
全長20cm前後、口は吸盤状、眼の後方に7個のえら孔がある。幼生は眼が未発達で水底の泥中で有機物を食べ、成魚は餌をとらない。
△/NT
カワヤツメ (ヤツメウナギ科)
全長50~60cmに成長。幼生は眼が未発達で、変態した幼魚は銀白色に変わって海へ下る。海では魚類を吸血して成長、川に遡上して産卵する。
▲/VU/回遊
ロングノーズガー(レピソステウス科)
1997年、福島潟で1個体採集された。北アメリカ原産の特定外来生物。原産地では全長2mに達し、長い口吻で魚を捕らえて食べる。
△/特定
ニホンウナギ (ウナギ科)
体は細長く、50~100cmに成長。魚やエビ類などを捕食し、成熟すると海に下って産卵。各地に放流されているが、県内では天然遡上は未確認。
△/VU/回遊
コノシロ (ニシン科)
全長25cmほどに成長する。海産魚であるが、塩水が遡上する河口部や湖沼に入り込むことがある。鎧潟で記録があるが、現在では見られない。
▲/汽・海
コイ飼育型(コイ科)
全長50~100cmに成長。口ひげがあり、雑食性で生活力が強く飼育が容易。県内に生息するのは、ほとんどが西アジア原産の飼育品種。
◎
ゲンゴロウブナ(ヘラブナ)(コイ科)
体高が高く、30~50cmに成長する。広い水面を遊泳しながら植物プランクトンを食べる。琵琶湖原産で、釣り用に各地に放流されている。
◎
ナガブナ (コイ科)
体は細長く、15~30cmに成長。ギンブナに似るが、臀びれ後から尾柄にかけて緩やかに細くなる。日本海側の河川、湖沼に分布するが数は少ない。
◎
ギンブナ(マブナ)(コイ科)
15~40cmに成長。雑食性で水草や水生小動物を捕食。ほとんどが三倍体のメスで、単為生殖を行う。各地に普通に生息し、放流も行われている。
◎
ヤリタナゴ(コイ科)
5~10cmに成長、口ひげがあり背びれのひれ膜に紡錘形の黒斑。産卵期のオスはひれが赤くなり、メスは産卵管が伸びる。
○/NT
カネヒラ(コイ科)
西日本原産の外来魚で、近年市内の河川、湖沼で増加中。体高が高く、8~15cmに成長する。生活力が強く、在来タナゴにとって大きな脅威。
◎
キタノアカヒレタビラ(コイ科)
6~10cmに成長し、胸びれ上方の青色斑明瞭。産卵期のオスの体色は、鮮やかな婚姻色。平野部の河川、湖沼に生息するが減少が著しい。
○/NT
ゼニタナゴ (コイ科)
全長6~12cm。北陸、関東以北に分布するが各地で激減、県内では絶滅。鎧潟などで数十年前の記録があるが、標本も写真も残っていない。
▲/EX
タイリクバラタナゴ(コイ科)
4~8cmに成長、オスの体色は鮮やか。80年ほど前、他の魚に混じって中国大陸から持ち込まれ、全国に広がった。在来タナゴ減少原因の一つ。
◎/重点
ハクレン(コイ科)
中国大陸原産で50~100cmになる。利根川で繁殖しているが、県内では放流個体が稀に見つかる程度。北米では大繁殖して問題となっている。
△/その他
ハス(コイ科)
オイカワに似て臀びれが長く、20~30cmに成長する。魚食性で口が大きい。琵琶湖原産で、ヘラブナの放流などに紛れて入り込んだ。
◎/その他
オイカワ(コイ科)地方名:ジンケン
琵琶湖原産で、ヘラブナやアユの放流に紛れ込んだ。12~15cmに成長。臀びれが長く、銀白色の光沢があり、産卵期のオスは婚姻色を現す。
◎
カワムツ(コイ科)
15~20cmに成長。西日本原産で湖産アユの放流に紛れ込み、比較的最近県内定着。オイカワに似るが、ひれは黄色、オスは喉から腹が赤くなる。
◎
ソウギョ(コイ科)
中国原産で、100cmを越す大型魚。利根川では繁殖しているが、県内で見られるのは放流個体。水草や岸辺の草を引きずり込んで食べる。
○/その他
アブラハヤ(コイ科)
一見ウグイに似るが8~13cmと小型。鱗が細かく、体色は褐色で体側中央に小黒点が並ぶ縦条がある。中山間地の小川、福島潟に生息。
○/LP
ジュウサンウグイ(コイ科)
30~60cmに成長するウグイの仲間。太平洋側のマルタとは亜種関係。幼魚は降海して成長し産卵に遡上するが近年激減。かつては鎧潟や鳥屋野潟、福島潟などに遡上。
○/NT/回遊
ウケクチウグイ(コイ科)
50~80cmに達する。地方名ホオナガ。魚食性が強く、下顎が突出する。信濃川、阿賀野川、最上川に分布する希少種で、福島潟にも生息する。
○/NT
ウグイ(コイ科)
別名ハヤ。河川や湖沼に広く生息。20~30cmに成長、一部は降海して50cmに達する。雑食性で生活力は強いが、近年カワウの食害等で減少。
◎/回遊
モツゴ(コイ科)
別名クチボソ。平野部の湖沼や河川に広く生息するが、西日本からの移入種。全長4~8cmで、体側中央に暗色の縦条がある。口先は尖り、上向き。
◎/その他
シナイモツゴ(コイ科)
4~7cmに成長。水草が繁茂する沼に生息するが、ブラックバス類などの外来魚の捕食、近縁なモツゴの侵入により各地で絶滅。鎧潟で記録がある。
▲/新潟県NT
ビワヒガイ(コイ科)
15~20cmに成長。琵琶湖原産で、平野部の河川、湖沼に定着。カラスガイなどの二枚貝に産卵する。産卵期のオスは鮮やかな婚姻色に変わる。
◎
タモロコ(コイ科)
5~9cmに成長。モツゴに似るが口先が丸くひげがある。体側に縦条、尾柄部に黒斑。平野部の河川、湖沼に広く生息し、移入説もある。
◎
ゼゼラ(コイ科)
4~7cmに成長、頭部は丸みを帯びる。砂泥底で暮らし、藻類などを食べる。西日本原産で、福島潟や信濃川下流で記録されている。
◎
スナゴカマツカ(コイ科)
15cmに成長する。砂底で暮らし、背面は保護色。驚くと砂の中に隠れる。口先を伸ばして砂を吸い込み、水生昆虫などの小動物を捕食する。
○
ツチフキ (コイ科)
カマツカに似るが4~10cmと小型で、口先は短い。西日本原産で、平野部の河川、湖沼に広がっている。原産地では減少しており、希少種扱い。
◎
ニゴイ(コイ科)地方名ミゴイ
全長50~60cmに成長。コイに似るが細長く、鱗が大きい。雑食性で、大型個体は小魚も捕食する。平野部の湖沼や中流域から河口まで生息する。
◎
スゴモロコ(コイ科)
10cm前後に成長、眼が大きく、ひげがある。鱗に光沢があり、体側の小黒点列が目立つ。琵琶湖原産で、平野部の大河川や福島潟に定着。
◎
ドジョウ (ドジョウ科)
湖沼や河川の底泥に住み、10~20cmに成長する。かつては水田にも広く生息し食用に捕獲されたが激減。中国大陸の系統も導入されている。
◎/環境省NT
ヒガシシマドジョウ(ドジョウ科)
砂底に住み、6~10cmと小型。体側に10個前後の黒斑がある。短い口ひげを6本もち、砂地の中に潜む水生昆虫や藻類を食べる。
○
フクドジョウ(ドジョウ科)
8~20cmに成長する。北海道原産で川の礫底に住み、水生昆虫や藻類を捕食する。阿賀野川用水を経て福島潟水系に侵入したと見られる。
△
ホトケドジョウ(ドジョウ科)
4~8cmと小型で、ドジョウに比べて体は太短い。水草が繁った小川に住み、その下流の福島潟や鎧潟で記録があるが、各地で減少。
▲/VU
ギギ(ギギ科)
15~40cmに成長。西日本原産で、河川中流域~下流域、湖沼に定着している。胸びれ、背びれの棘に毒がある。夜行性で水生昆虫や小魚を捕食。
◎/その他
ナマズ (ナマズ科)
50~70cmに成長。西日本原産で県内には江戸末期ごろに持ちこまれ、中流域から下流域、湖沼に定着。水生昆虫や魚、カエル、エビ類などを捕食。
◎
アカザ(アカザ科)
8~10cmに成長。体は赤褐色で、眼は小さい。脂びれをもち、胸びれ、背びれの棘に毒がある。夜行性で、大きな口で水生昆虫を捕食する。
▲/NT
ワカサギ (キュウリウオ科)
10cm前後に成長する。海に下って成長するものや、一生川や湖沼にとどまるものがある。信濃川や阿賀野川、福島潟などで稀に見つかる。
△/NT/回遊
アユ (アユ科)
秋に川で生まれた稚魚は海に下って成長し、翌春川に遡上、付着藻を食べて20~30cmに成長する。寿命1年の年魚。湖沼に迷入することがある。
▲/回遊
ニッコウイワナ(サケ科)
20~30cmに成長、ダム湖では60cmを越すことも。川の上流部に住み、昆虫や小魚を捕食。冬季に潟に下ることがある。一部は降海する。
▲/一部回遊
サケ(サケ科)
厳寒期に川で生まれた稚魚は、雪解けとともに海に下り、約4年の海洋生活を経て母川に遡上産卵する。少数ながら上堰潟直下まで遡上する。
▲/回遊
サクラマス(ヤマメ)(サケ科)
厳寒期に生まれた稚魚は1年半川で過ごし、一部海に下り約1年後川に遡上する。一生川で過ごすヤマメには、パーマークが残る。
▲/NT/回遊
ニホンイトヨ (トゲウオ科)
7~10cm、遡上直後は銀白色、鱗は大きく、腹びれ、背びれに棘がある。オスは巣を作り卵・稚魚を守る。寿命1年。早春に大量に遡上したが激減。
▲/EN/回遊
トミヨ属淡水型(トゲウオ科)
イトヨより細く小型で6~8cm。背びれに短い多数の棘。オスは水草に丸い巣を作り、卵や稚魚を守る。福島潟や鎧潟などで記録があるが市内絶滅。
▲/EX
ボラ(ボラ科)地方名:シロメ
35~60cmに成長。胸びれ基部に斑紋、眼の周囲に脂瞼がある。幼魚は河川や潟に侵入、温暖な海域で産卵。南方系で全世界の暖海に分布。
▲/汽・海
メナダ(ボラ科)地方名:アカメ
80~100cmに成長。ボラに似るが虹彩はオレンジ色。河川や潟に侵入して群泳、鳥屋野潟にも入り込む。北方系で亜寒帯域に多い。
▲/汽・海
キタノメダカ(メダカ科)
4~5cmの小魚。口は小さく上向き、水面を群泳し水生昆虫や落下昆虫を捕食。東日本の日本海側に分布。別産地や飼育品種の放流が脅威。
○/NT
メダカ(飼育品種)(メダカ科)
近年様々な改良品種が高額で売買され、自然水域にも放されている。元はミナミメダカで、在来のキタノメダカへの遺伝子汚染が危惧される。
△
サヨリ(サヨリ科)
下顎が長く突出し、全長は40cmに達する。水面付近を泳いで動物プランクトンなどを捕食。塩水が遡上する川や潟に侵入し、鎧潟で記録がある。
▲/汽・海
スズキ(スズキ科)
成長すると1mに達し、口は大きく魚食性。沿岸部に生息するが、幼魚、未成魚は淡水域にも侵入する。かつて市内各地の潟で見られた。
▲/汽・海
ブルーギル(サンフィッシュ科)
20~30cmに成長。体高が高く左右に扁平、背びれ前方の棘条は鋭く、鰓蓋後方に黒青斑がある。雑食性で繁殖力旺盛、北米原産の特定外来生物。
◎/特定
オオクチバス (サンフィッシュ科)
別名ブラックバス。40~60cmに達する。魚食性で遊泳能力、捕食能力が高い。北米原産で移植先の魚類相に大打撃を及ぼす特定外来生物。
◎/特定
コクチバス (サンフィッシュ科)
40~50cmに成長。オオクチバスより口が小さめだが、遊泳能力はさらに高く、福島潟や流れの速い河川にも侵入。北米原産の特定外来生物。
◎/特定
クロダイ (タイ科)
50~70cmに成長、成魚の背面、背びれは黒色。沿岸部に生息し、幼魚は塩水が遡上する下流河川や潟に侵入する。市内各地の潟で記録がある。
▲/汽・海
シマイサキ(シマイサキ科)
30~40cmに成長。体側に数本の黒条がある。沿岸部に生息するが、幼魚は淡水域まで侵入する。市内各地の潟で記録がある。
△/汽・海
アユカケ (カジカ科)
別名カマキリ。20~30cmに達する大型のカジカ。水生昆虫や小魚を捕食。沿岸部で産卵し、中流域まで遡上する。市内各地の潟で記録がある。
▲/NT/回遊
カジカ中卵型 (カジカ科)
10~15cmに成長。河川で生まれ稚魚期を沿岸部で過ごす。河川上流に住む大卵型より胸びれ条数が多い。鎧潟で記録がある。ダムや堰により激減。
▲/NT/回遊
シロウオ(ハゼ科)
体は細長く4~6cm、ほとんど透明で内臓が透けて見える。早春のころ石礫が点在する小河川に遡上して産卵する。寿命1年。鎧潟で記録がある。
▲/NT/回遊
マハゼ(ハゼ科)
15~25cmに成長。内湾や河口部の汽水域に生息し、市内各地の潟にも入り込んだ。砂泥底に暮らす底生魚で、水底の小動物や小魚を捕食する。
▲/汽・海
ヌマチチブ(ハゼ科)
体は太く短く、5~12cm。胸びれ基部に黄色斑、中にオレンジ色の線がある。稚魚は一時海に下るが、一生淡水域で暮らす陸封型もある。
▲/回遊(陸封)
トウヨシノボリ類(ハゼ科)
4~8cmに成長。オスは尾柄部にオレンジ色の斑紋。変異が大きく分類は未確定。雑食性で、付着藻や水生小動物を捕食する。市内の潟に広く分布。
◎
ウキゴリ(ハゼ科)
8~15cmに成長。口が大きくサケ稚魚を食害することがある。稚魚は一時海に下るが、淡水域で一生暮らす陸封型もある。鎧潟で記録がある。
○/回遊(陸封)
ジュズカケハゼ(ハゼ科)
ウキゴリの近縁種であるが、4~7cmと小型。尾柄は細い。産卵期の婚姻色はメスの方が顕著で、体やひれが黒化し体側に黄色の横縞が現れる。
○/県VU
チョウセンブナ (ゴクラクギョ科)
5~8cm。中国・朝鮮半島原産。産卵期のオスはひれが伸長、婚姻色に変わる。空気呼吸を行い、オスは水面の泡巣で卵を保護。現在ほぼ絶滅状態。
▲
カムルチー(タイワンドジョウ科)
60~100cm。中国・朝鮮半島原産で別名ライギョ。背びれ基底部が長い。体側に2列の大きな斑紋が並ぶが、成魚では不鮮明。空気呼吸を行う。
◎
ヌマガレイ(カレイ科)
30~60cmに成長。カレイの仲間だが、眼は左側にある。ひれに黒色の縞模様がある。沿岸部から川の下流、潟に入り、鎧潟で記録がある。
▲/汽・海
クサフグ (フグ科)
15~30cm。背面に小白点、胸びれ上部と背びれ基部に大きな黒斑。皮と内臓に猛毒をもつ。沿岸に住み、川に侵入、鎧潟・鳥屋野潟で記録がある。
▲/汽・海
執筆者
井上 信夫(生物多様性保全ネットワーク新潟)
参考資料
- 後藤光衛・山崎芳夫(1967)巻町双書第14集 鎧潟の魚類.巻町役場.
- 細谷和海(編)(2019)山渓ハンディ図鑑15 増補改訂日本の淡水魚.山と渓谷社.
- 井上信夫(2015)上堰潟の魚類調査報告.新潟市潟環境研究所研究成果報告書.
- 北村淳一・内山りゅう(2022)日本のタナゴ.山と渓谷社.
- 国立科学博物館 標本・資料データベース(2023年2月9日閲覧)
- 中島淳・内山りゅう(2017)日本のドジョウ.山と渓谷社.
- 新潟市潟環境研究所(編)(2018)みんなの潟学.