新潟市の湖沼でみられる昆虫
新潟市の湿地帯では1000種類以上の昆虫が確認されています。そこには周辺の農地や雑草地、松林などで発生する種も含まれますが、トンボ類やアメンボ、ゲンゴロウ類のように成虫又は幼虫が水中・水面生活を送る種や、水辺の植物を食草としたり、湿地の環境を好む種も多く知られています。この中から、観察されやすい種を中心に代表的な種を紹介します。都市化、温暖化などから湖沼の環境は変化し、生息するこれらの昆虫も減少傾向ですが、昆虫は種類が多く、特に微小な種は調査が不十分でまだ未発見の種も多いと思われます。
解説の中で、「全長」と「体長」は触角や脚を除いた頭から腹端までの長さ、「前翅長」は前翅の付け根から先端までの長さ、「開帳」は翅を左右に広げた時の幅を示します。
なお、トンボ類の多くは羽化直後は未成熟であり、その後成熟すると体色が変化します。ここでは成熟個体の体色を記しました。
希少種:レッドデータブック掲載種
- 市NT:新潟県及び新潟市指定種(準絶滅危惧指定種)
- 国NT:環境省指定種(準絶滅危惧指定種)
外来種:人為的に持ち込まれた種
キイトトンボ(イトトンボ科)
全長31~48mm。胸部は黄緑、腹部は雄は鮮やかな黄色、雌は黄緑色。成虫は6~9月にみられる。植物の繁茂する池沼に生息。
アジアイトトンボ(イトトンボ科)
全長24~34mm。雄は胸部が緑色、腹部先端が青色、雌は体色が未成熟では赤、成熟すると緑色に変化する。成虫は5~10月にみられる。
クロイトトンボ(イトトンボ科)
全長27~38mm。成熟個体は雄は胸部が青白色、雌は緑色と青色の2型がある。成虫は6~9月にみられる。樹林に隣接する池沼を好む。
セスジイトトンボ(イトトンボ科)
全長27~37mm。成熟個体は胸部・腹部が雄は青色、雌は緑~黄褐色。平野部の潟に広く生息する。幼虫越冬で成虫は5~9月にみられる。
モノサシトンボ(モノサシトンボ科)
全長39~51mm。成熟個体の体色は水色と黒のしま模様、雌は黄緑色の個体もいる。脚の先端半分は白い。成虫は6~9月にみられる。
ハグロトンボ(カワトンボ科)
全長57~68mm。雄雌とも一様に黒褐色。緩やかな流れの植物が繁茂する川で発生する。幼虫越冬で成虫は6~9月にみられる。
アオヤンマ(ヤンマ科)
体長66~79㎜。体は緑色で黒い線が走る。早朝と夕方に飛ぶ。成虫は6~7月にみられる。ヨシやマコモが繁茂する池や沼で発生。
市NT
ギンヤンマ(ヤンマ科)
全長65~84㎜。雄は腹部の付け根付近が青い。雌は主に黄緑色。流れのない池沼や人工的な池で発生。成虫は6~10月にみられる。
ウチワヤンマ(サナエトンボ科)
全長70~87mm。黒地に黄色い斑紋。腹部末端が左右にうちわ状に広がる。水面の開けた池や湖に生息。成虫は6~9月にみられる。
オニヤンマ(オニヤンマ科)
全長82~114mm。日本最大のトンボ。黒と黄色のしま模様。複眼は緑色。幼虫は河川に生息。幼虫期間4年程度。成虫は7~10月にみられる。
オオヤマトンボ(ヤマトンボ科)
全長79~92㎜。黄色と黒のしま模様で胸に青緑色の金属光沢の斑紋有。水面が開けた池や湖で発生。成虫は6~9月にみられる。
ショウジョウトンボ(トンボ科)
全長41~55㎜。成熟雄は全身があざやかな赤。雌はオレンジ色~黄褐色。池沼や湿地に広く生息。成虫は6~9月にみられる。
コフキトンボ(トンボ科)
全長37~48㎜。体表に白い粉が吹き水色に見える。雌は時に粉が無く翅に褐色の模様を持つ個体も出る。成虫は6~9月にみられる。
ヨツボシトンボ(トンボ科)
全長38~52㎜。体は黄褐色で各翅の前縁中ほどに黒点が目立つ。抽水植物が繁茂する発生。成虫は5~6月にみられる。
シオカラトンボ(トンボ科)
全長47~61㎜。成熟雄は体表に白粉を吹き水色に見え、腹部末端付近は黒。雌は普通黄褐色でムギワラ模様。成虫は5~10月にみられる。
シオヤトンボ(トンボ科)
全長36~49㎜。成熟雄は腹部先端まで白粉を吹く。雌は黄褐色。翅は付け根に小さな橙色の斑紋。浅い池沼や湿地で発生。成虫は5~7月にみられる。
オオシオカラトンボ(トンボ科)
全長49~61㎜。成熟雄は青灰色の粉を吹く。雌は腹部基部は黄色先端は黒。翅の基部と先端は黒褐色。成虫は6~10月に見られる。
ウスバキトンボ(トンボ科)
全長44~54㎜。体色はオレンジ色で成熟雄は赤みが強くなる。寒さに弱く越冬できず毎年南方から世代を繰り返しながら飛来する。
コシアキトンボ(トンボ科)
全長42~50㎜。体色は黒色で、腹部の基部2節は黄白色。翅の基部と先端は黒褐色。幼虫越冬で、成虫は6~9月にみられる。
チョウトンボ(トンボ科)
全長31~42㎜。翅と全身が黒く、翅は青又は金色の光沢を持ち翅の先端は無色。成虫は6~8月にみられる。ヒラヒラ舞うように飛ぶ。
ナツアカネ(トンボ科)
全長33~43㎜。アキアカネよりやや小型。成熟雄は全身赤くなる。雌は腹部が赤~オレンジ色。成虫は7~11月にみられる。
アキアカネ(トンボ科)
全長33~46㎜。腹部は成熟雄は赤、雌は背面のみ赤又は淡褐色。成虫は7月に羽化し涼しい山等に長距離移動し、秋に平地に戻る。
ノシメトンボ(トンボ科)
全長37~52㎜。腹部は暗い赤褐色。翅の先端に褐色の斑紋を有す。成虫は6~7月に羽化し山等へ移動し、秋に水辺に戻る。
リスアカネ(トンボ科)
全長31~46㎜。成熟個体は腹部が赤くなるが、雌では淡褐色の個体も多い。翅の先端は褐色。成虫は6~11月にみられる。
ケラ(ケラ科)
体長30~35㎜。全体濃褐色。湿った土を好み、土中にトンネルを掘って生活する。夜行性。成虫は1年中見られる。飛んだり水面を泳ぐこともできる。
ヤチスズ(ヒバリモドキ科)
体長(産卵器を除く)6~9㎜。体色は濃褐色~淡褐色。湿った草地に生息し、成虫は夏から秋にみられる。長めに「ジー」と鳴く。
ホソミドリウンカ(ウンカ科)
翅を閉じた長さ6㎜。全体が淡緑色。頭は前方に突出する。前翅は細長く、先端が褐色を帯びることもある。水辺のマコモなどに寄生する。
アメンボ(アメンボ科)
体長11~16㎜。体は黒色~黒褐色。翅の長い個体と短くて飛べない個体が出る。尾端に1対トゲ状の突起を持つ。飴(あめ)のような匂いを出す。
ババアメンボ(アメンボ科)
体長6.3~9.1㎜。体は黒色。翅の長い個体と短くて飛べない個体がある。植物が生える池沼の水面を素早く滑走する。
市NT
ヒメアメンボ(アメンボ科)
体長9~12㎜。体は黒色。最も普通に見られる小型アメンボで水田や水たまりでも見かける。よく飛翔する。成虫は4~10月に見られる。
ハネナシアメンボ(アメンボ科)
体長6.5~10㎜。幅広いひし形の体形。体色は灰黒色から黒で腹部。普通、翅は無いが、まれに翅を持ち飛翔できる個体も出現する。
メミズムシ(メミズムシ科)
体長4.1~5.5㎜。背面は光沢のない黒色。湿地や水辺の地表に生息する。成虫は4~10月にみられる。泥上を歩行、跳躍する。
コオイムシ(コオイムシ科)
体長17~20㎜。体は全体茶色~薄茶色。平野部の湿地、湖沼に生息。雌が雄の背中に卵を産み雄は孵化まで背負って卵を守る。
市NT
ヒメミズカマキリ(タイコウチ科)
体長24~32㎜。体は淡褐色で棒状。前脚は鎌(カマ)状で小動物を捕獲する。夏から秋に羽化し成虫は1年程度生存する。
マツモムシ(マツモムシ科)
体長11.5~14㎜。前翅は黒色で斜めに黄色いおびがある。成虫は1年中見られる。背中を下向きにして泳ぐ。人工的な池にも生息する。
ハイイロボクトウ(ボクトウガ科)
開帳35~38㎜。翅は灰褐色で小黒点が列所に並ぶ。成虫は6~7月に発生する。夜行性。幼虫はヨシの茎に潜り茎内を食す。
イチモンジセセリ(セセリチョウ科)
前翅長15~21㎜。翅の表は濃褐色で裏は黄褐色。後翅に直線に並んだ4個の銀紋。成虫は6月みられ、秋に多い。幼虫はイネ科植物を食す。
ミドリシジミ(シジミチョウ科)
前翅長16-23㎜。翅の表は金属光沢の青緑色。雌は黒褐色。裏面は黄褐色。成虫は6~7月にみられる。幼虫はハンノキの葉を食す。
ニカメイガ(ツトガ科)
開帳雄17~25㎜。雌は21~34㎜。淡い褐色~茶褐色。成虫は5~6月と8月ころにみられる。夜行性。イネやマコモの茎に食入する。
マダラミズメイガ(ツトガ科)
開帳21-28㎜。黄色と白のまだら模様黒褐色の縁取りがある白紋がある。成虫は5~9月にみられる。幼虫はスイレンなどの葉を食す。
ヒメマダラミズメイガ(ツトガ科)
開帳12-18㎜。翅の地色は暗褐色で細い白線が3本走る。成虫は5科瀬10月にみられる。幼虫はウキクサ類やスイレンの葉を食す。
ガマヨトウ(ヤガ科)
開帳32~42㎜。前翅は黄褐色~濃褐色。成虫は7~8月に出現する。夜行性。幼虫はガマの茎に入り茎内を食す。
国NT
オオチャバネヨトウ(ヤガ科)
開帳35~52㎜。前翅は濃赤褐色。成虫は6から7月に出現する。夜行性。幼虫はガマの茎に入り茎内を食す。
国NT
キリウジガガンボ(ガガンボ科)
体長14~18㎜。体は灰褐色で前翅の前縁は色が濃い。成虫は冬を除き1年中見られる。幼虫は土中でイネなどの根を食害する。
ミイデラゴミムシ(オサムシ科)
体長11~18㎜。前翅に黄褐色の丸い斑紋。湿った環境の石の下に住み幼虫はケラの卵を食す。触ると熱くて臭いガスを噴射する。
コシマゲンゴロウ(ゲンゴロウ科)
体長9~11㎜。頭部は黄褐色。前翅は光沢があり黄色と黒の細かい縦じま模様を持つ。成虫は春から晩秋までみられる。
ヒメゲンゴロウ(ゲンゴロウ科)
体長10~12㎜。前翅は黄褐色で小黒点が密に入る。翅の縁は黒点なく黄褐色。成虫は春から晩秋までみられる。活発に泳ぎ灯火にも飛来する。
オオミズスマシ(ミズスマシ科)
体長8~10㎜。光沢のある黒で前翅は黄色く縁どられる。複眼は上下に分かれ水中と水上を同時に見られる。水面を素早く旋回する。
国NT
コガムシ(ガムシ科)
体長16~18㎜。体と触角は黒で脚と口器は赤褐色。成虫は1年中みられる。平地の池沼のほか水田にも生息する。
ヘイケボタル(ホタル科)
体長7~10㎜。胸部は赤い地に黒く太い帯。成虫は6~8月にみられる。成虫、幼虫ともに夜発光する。幼虫は池に生息し巻貝を食す。
オオルリハムシ(ハムシ科)
体長10~15㎜。全体がやや鈍い光沢ある黒青色~藍色。成虫は6~8月に出現する。湿地に生息しシロネなどの葉を食べる。
市NT
イネネクイハムシ(ハムシ科)
体長6~8㎜。前翅は紫銅色~赤褐色で金属光沢は弱い。成虫は6~9月にみられる。幼虫はイネやハスの根を食害する。
ジュンサイハムシ(ハムシ科)
体長4.5~6㎜。全体黒色で前翅の周囲は暗褐色。成虫は5~8月にみられる。ジュンサイ、ヒシなど水面に浮く葉を食す。
イネミズゾウムシ(ゾウムシ科)
体長3㎜。成虫は4~8月にみられる。全体灰色地で背中に黒い紋を持つ。成虫がイネ科の葉、幼虫が根を食べる。成虫は水面や水中を泳ぐ。
外来
執筆者
中野 潔(越佐昆虫同好会)
参考資料
- 尾園暁・川島逸郎・二橋亮(2017)ネイチャーガイド 日本のトンボ第3版.文一総合出版.
- 杉村光俊・石田昇三・小島圭三・石田勝義・青木典司(1999)原色 日本トンボ幼虫・成虫大図鑑.北海道大学図書刊行会.
- 三田村敏正・平澤桂・吉井重幸(2017)水生昆虫2タガメ・アメンボ ハンドブック.文一総合出版.
- 伊藤修四郎・奥谷禎一・日浦勇 編著(1977)全改訂新版 原色日本昆虫図鑑(下).保育社.
- 平嶋義宏・森本桂 監修(2008)新訂 原色昆虫大図鑑 第Ⅲ巻.北隆館.
- 可合禎次・谷田一三 共編(2018)日本産水生昆虫 科・属・種への検索[第二版].東海大学出版部
- 町田龍一郎 監修 日本直翅学会編(2016)日本産直翅類標準図鑑.学研教育出版
- 岸田泰則 編(2011)日本産蛾類標準図鑑Ⅱ.学研教育出版
- 町田龍一郎 監修 阿部浩志・奥山清市・田中良尚・長島聖大・諸岡範澄(2019)くらべてわかる甲虫1062種.山と渓谷社.
- 上野俊一・黒沢良彦・佐藤正孝編著(1985)原色日本甲虫図鑑(Ⅱ).保育社.
- 林匡夫・森本桂・木元新作 編著(1984)原色日本甲虫図鑑(Ⅳ).保育社.
- 森正人・北山昭(1993)図説日本のゲンゴロウ.文一総合出版.
- 林成多(2012)日本のネクイハムシ.月刊むし 昆虫図説シリーズ2.むし社.
- 佐藤俊男(1989)オオルリハムシの新産地.越佐昆虫同好会会報68:80.
- 伊丹英雄(2018)オオルリハムシの飼育記録.越佐昆虫同好会会報118:31-34.
- 木元新作・滝沢春雄(1994)日本産ハムシ類成虫・幼虫検索図説.東海大学出版会.
- 岸田泰則(2013)ボクトウガ科.広渡俊哉・那須義次・坂巻祥孝・岸田泰則(編)日本産蛾類標準図鑑Ⅲ:342-343.学研教育出版
- 佐々木明夫(2013)ツトガ亜科.那須義次・広渡俊哉・岸田泰則(編)編,日本産蛾類標準図鑑Ⅳ:378.学研教育出版.
写真提供者
【須藤弘之氏】ミイデラゴミムシ
【井上信夫氏】キイトトンボ、アジアイトトンボ、クロイトトンボ、モノサシトンボ、アオヤンマ、オオヤマトンボ、シオヤトンボ、オオシオカラトンボ、ウスバキトンボ、ナツアカネ、リスアカネ、ヒメゲンゴロウ、コガムシ
【指村奈穂子氏】ヘイケボタル
【山浦知雄氏】イネネクイハムシ
【鈴木正樹氏】ジュンサイハムシ