新潟市の潟で確認されている植物
新潟市域全体では、2010年の調査により約1,700種の維管束植物が記録されており(※1)、現存する16の潟には2015年の時点で966種が記録されています(※2)。そのうち、水中~湿った環境に生活する植物は236種です(※3)。
16の潟の総面積は約500haありますが、これは新潟市全体の面積(約76,200ha)の約0.7%しかありません。ですが、このとても限られた面積に市内で確認された種の約56%が生育していることになります。また、潟環境には81種(うち12種が野生絶滅種)の絶滅危惧種が記録されています。これは、市で指定されている188種の絶滅危惧種のうちの、約43%が生育していることになります。以上のことから、潟環境にはいかに貴重な植物が生育しており、多様性が高いのかが分かります。
このページでは特に注目すべき、絶滅危惧種(野生絶滅種含む)・外来種を中心に70種の水生・湿生植物を紹介します。
希少種:新潟市レッドデータブック掲載種
- EX(絶滅)
- EW(野生絶滅)
- EN(絶滅危惧Ⅰ類)
- VU(絶滅危惧Ⅱ類)
- NT(準絶滅危惧)
- LP(地域個体群)
外来種:人為的に持ち込まれた種
- 特定外来生物:特定(外来生物法)
- 緊急対策外来種 :緊急 (生態系被害防止外来種リスト)
- 重点対策外来種 :重点 (生態系被害防止外来種リスト)
イチョウウキゴケ(ウキゴケ科)
日本で唯一の水面に浮遊して生活しているコケ類。イチョウの葉に似た半円形の葉状体が名前の由来。県ではNTに指定。
デンジソウ(デンジソウ科)
多年生の水生シダ植物。生活型は抽水~浮葉、または湿性。新潟県では野生絶滅。現在確認できるのは保全・栽培されてきた個体。
EW
サンショウモ(サンショウモ科)
一年生の水生シダ植物。生活型は浮遊。秋になると水中葉の基部に球形の胞子嚢を形成する。
VU
ヒメミズワラビ(イノモトソウ科)
一年生の水生シダ植物。ミズワラビの北方型が本種に該当する。秋以降に、胞子をつける葉幅の細い胞子葉を展開する。
NT
ジュンサイ(ジュンサイ科)
多年生の浮葉植物。花は赤色で6~8月頃、2日にわたり開花する。葉裏は寒天質の粘液に被われ、若芽は食用になる。
EN
フサジュンサイ(ハゴロモモ)(ジュンサイ科)
多年生の沈水植物。水槽植物として導入されたものが逸出し、1950年に野生化が確認。各地で大群落を作り問題となっている。
重点
オニバス(スイレン科)
一年生の浮葉植物。成長した葉はときに直径2mを超える。福島潟の個体が国内分布の北限とされている。種子の寿命は50年以上とも言われる。
VU
コウホネ(スイレン科)
多年生の抽水植物。太い地下茎が横走するため「コウホネ=河骨」という名称の由来になった。潟の浅瀬でよく見られる。
ヒツジグサ(スイレン科)
多年生の浮葉植物。新潟市では野生絶滅。花期は6~11月で白い花を水面に咲かせる。標高が高い湿原の池(池塘)にも生育する。
EW
園芸スイレン(スイレン科)
多年生の浮葉植物。栽培品種の総称で、明治時代末期に園芸植物として渡来した。全国各地で野生化し問題となっている。
重点
ハンゲショウ(ドクダミ科)
水辺や湿地に生育する多年草。和名の由来は夏至から11日目にあたる半夏生の頃に花を咲かせることから。
EN
アギナシ(オモダカ科)
多年生の抽水~湿性植物。オモダカに似るが、葉(葉柄)の基部に多数の「むかご」を形成し、栄養繫殖するのが特徴。
EN
オオカナダモ(トチカガミ科)
多年生の沈水植物。南アメリカ原産で大正時代に渡来し、ときに異常繁茂して被害をもたらす。葉はふつう4輪生する。
重点
コカナダモ(トチカガミ科)
多年生の沈水植物。アメリカ北東部原産で昭和の初め渡来し、各地で異常繁茂して問題となっている。葉はふつう3輪生する。
重点
クロモ(トチカガミ科)
多年生の沈水植物。外来種のオオカナダモやコカナダモに似ているが、葉はふつう3~8輪生することが特徴。
VU
トチカガミ(トチカガミ科)
多年生の浮遊植物。8~10月頃白い花を咲かせる。和名の由来は、葉が丸く光沢があるため、トチ(方言でスッポン)のカガミ(鏡)の意味。
VU
トリゲモ(トチカガミ科)
一年生の沈水植物。新潟市では野生絶滅。オオトリゲモに似るが、葯室が1室で、表皮細胞の長さが90㎛と小さいのが特徴。
EW
ミズオオバコ(トチカガミ科)
一年生の沈水植物。水中にオオバコのような根生葉を広げる。花期は8~10月で薄桃色の花を水面に咲かせる。
VU
コウガイモ(トチカガミ科)
多年生の沈水植物。秋になると水中の茎の先に笄(こうがい:頭に飾る装飾品)状の芽(殖芽)を形成し、越冬する。
VU
エビモ(ヒルムシロ科)
多年生の沈水植物。流水域ではヤナギモと並ぶ普通種で、水質汚濁にも強い。葉の葉縁は縮れたように波打つことが多い。
ヒルムシロ(ヒルムシロ科)
多年生の浮遊植物。名前の由来は、浮葉をヒルのむしろ(居所)に例えたことから。主に沈水葉の違いで種が分類される。
ホソバミズヒキモ(ヒルムシロ科)
多年生の沈水~浮葉植物。沈水葉だけの個体は似ている種があり識別が難しい。分類学的にも再検討が必要とされている。
ヤナギモ(ヒルムシロ科)
多年生の沈水植物。流水域ではエビモと並ぶ普通種で、水質汚濁にも強い。和名は葉の形からつけられたもの。
ササバモ(ヒルムシロ科)
多年生の沈水~浮葉植物。新潟市では野生絶滅。葉は笹の葉に似て、葉先が尖るのが特徴。全長は3mを超えることもある。
EW
ノハナショウブ(アヤメ科)
水辺や湿地などに生育する多年草。花被片の中央部に“黄色い”模様が入る。園芸種で知られるハナショウブの原種。
NT
カキツバタ(アヤメ科)
水辺や湿地を好む多年草。花被片の中央部に“白い”模様が入る。尾形光琳の国宝「燕子花図(かきつばたず)」が有名。
VU
キショウブ(アヤメ科)
多年生の抽水植物。明治時代に観賞植物としてヨーロッパから導入された。地下に横には太い根茎があり、分枝して繁殖する。
重点
ホテイアオイ(ミズアオイ科)
多年生の浮遊植物。熱帯アメリカ原産。温暖な気候と栄養豊富な水域で旺盛に繁殖するため、世界各地で問題となっている。
重点
ミズアオイ(ミズアオイ科)
一年生の抽水~湿性植物。雌蕊と雄蕊の位置が、花や個体により左右変化する性質(鏡像花柱性)をもつ。
VU
ミクリ(ガマ科)
多年生の抽水植物。その花序の様子が栗のイガに似るため、ミクリ(実栗)の名がある。
NT
ヒメガマ(ガマ科)
多年生の抽水植物。水辺や湿地に普通に生育する。ガマに似るが、雌花群と雄花群の間の茎が裸出するのが違い。
ガマ(ガマ科)
多年生の抽水植物。ガマは漢字で「蒲」と書くが、潟や湿地が多い(多かった)新潟には「蒲」がつく地名が各所に見られる。
チクゴスズメノヒエ(イネ科)
多年生の抽水~湿性植物。北アメリカ南部原産。1970年代に福岡県筑後地方で初確認された。水面に浮島状の群落をつくる。
重点
ヨシ(イネ科)
多年生の抽水~湿性植物。潟の代表的な植物で、アシとも呼ばれる。かつては屋根材や壁材、燃料などに幅広く利用されていた。
マコモ(イネ科)
多年生の抽水植物。国の天然記念物オオヒシクイ(水鳥)の食草であるため、福島潟では植栽されている。
マツモ(マツモ科)
多年生の沈水性浮遊植物。根はなく、水面下で浮遊するが、ときに茎の基部が「仮根」の役割を果たし固着する。
VU
ハス(ハス科)
多年生の抽水植物。蓮根を収穫するため各地でハス田で栽培される。各地で見られる個体は栽培品の逸失がほとんどだと考えられている。
タコノアシ(タコノアシ科)
湿地を好む多年草。和名の由来は花や実がびっしり並んだ花序が、吸盤の多いタコの足に似ていることから。
VU
オニグルミ(クルミ科)
落葉高木。5~6月頃開花し、果実は9~10月頃成熟する。果実は硬い殻に覆われており、種子はクルミとして食用できる。
ハンノキ(カバノキ科)
落葉高木。湿地に生育する。雄花と雌花は別々に咲かせ、冬に枝先に目立つ丸い果穂は雌花の跡。
アレチウリ(ウリ科)
北アメリカ原産のつる性の一年草。1952年に静岡に渡来した。果実に鋭い刺がある。鳥屋野潟では繫茂している。
緊急 / 特定
カワヤナギ(ヤナギ科)
落葉低高木。雄株と雌株に分かれる。タチヤナギと比べて、葉の幅が狭く、雄花は雄蕊1本、雌花は黒い部分が無い。
タチヤナギ(ヤナギ科)
落葉低高木。雄株と雌株に分かれる。カワヤナギと比べて、葉の幅が広く、雄花は雄蕊3本、雌花は黒い部分(苞)がある。
ミズオトギリ(オトギリソウ科)
水辺や湿地などに生育する多年草。オトギリソウの仲間では珍しいピンク色の花を咲かせる。
ミソハギ(ミソハギ科)
湿地に生育する多年草。7~8月頃に紅紫色の花を数多く咲かせる。祭事に使われることから漢字で「禊萩」と各書く。
ヒシ(ミソハギ科)
一年生の浮遊植物。花は水面上に咲く。果実は食用として利用できるため救荒植物として知られている。
アカバナ(アカバナ科)
湿地に生育する多年草。花期は7~9月頃。種子には毛(種髪)があり、風を利用して種子を散布する。
オランダガラシ(クレソン)(アブラナ科)
多年生の抽水植物。ヨーロッパ、中央アジア原産。食用に広く利用される。世界的に温帯地域の水路で問題になっている。
重点
シロバナサクラタデ(タデ科)
湿地に生育する多年草。サクラタデに似るが、花の色が白色。花期は8~11月。雄株と雌株がある(雌雄異株)。
サクラタデ(タデ科)
湿地に生育する多年草。花期は8~10月。タデの仲間では最も大きなピンク色の花を咲かせる。雌雄異株。
ミゾソバ(タデ科)
水湿地に生育する一年草。葉の形が牛の額(おでこ)に見えることから別名ウシノヒタイと呼ばれる。花期は7~10月。
ムジナモ(モウセンゴケ科)
多年生の沈水性浮遊植物。新潟でもかつて自生していたが、国内の野生自生地はすべて消滅してしまった。
EX
オカトラノオ(サクラソウ科)
草地などに生育する一年草。和名の由来は花序が虎の尾に見立てたことから。花序の上部は垂れるのが特徴。
ヌマトラノオ(サクラソウ科)
湿地に生育する多年草。オカトラノオに似るが、湿地に生育し、花序の上部は垂れず直立する。
ヤナギトラノオ(サクラソウ科)
湿地に生育する多年草。葉がヤナギの葉に似る。葉の基部(葉腋)に黄色のブラシ状の花序を咲かせる。
EN
キクモ(オオバコ科)
一年生の沈水~抽水~湿性植物。葉は4~10輪生し、水中と気中で顕著に形が変化する。
NT
ヒシモドキ(オオバコ科)
一年生の浮葉植物。一見ヒシに似るが、分類される科も異なる。花期は7~9月頃で、花柄を伸ばし咲く。
EW
シロネ(シソ科)
湿地に生育する多年草。草丈は1mほどにもなる。葉は対になってつき(対生)楕円形。
ヒメシロネ(シソ科)
湿地に生育する多年草。シロネに似るが、葉が細長いのが特徴。シロネより小さく細いので、和名に「ヒメ=姫」がつく。
ハッカ(シソ科)
やや湿地を好む多年草。メントール成分を含むため、葉を揉むと爽やかな香りがある。古くから薬用や香料として利用される。
イヌタヌキモ(タヌキモ科)
多年生の浮遊植物。水中葉に捕虫嚢をもつ食虫植物。タヌキモに似るが、越冬芽(殖芽)の形が楕円形。
VU
タヌキモ(タヌキモ科)
多年生の浮遊植物。水中葉に捕虫嚢をもつ食虫植物。イヌタヌキモとオオタヌキモの雑種。
VU
サワギキョウ(キキョウ科)
湿地に生育する多年草。花期は8~9月頃。湿地の開発や採取などにより個体数を減らしている。
EW
ミツガシワ(ミツガシワ科)
多年生の抽水植物。3枚の小葉で1枚の葉になる。個体により雌しべの高さが違う性質をもつ(異型花柱性)。
EW
ガガブタ(ミツガシワ科)
多年草の浮葉植物。花期は7~9月。花は白色で花弁には毛が密生する。異形花柱性をもつ。
EN
アサザ(ミツガシワ科)
多年草の浮葉植物。花期は6~9月で、花は黄色。茨城県霞ヶ浦での保全活動が有名。異形花柱性をもつ。
EN
タカアザミ(キク科)
河川や湿り気のある場所を好む二年草。花期は8~10月頃。春から夏にかけて見れられるアザミはノアザミという別種。
NT
オオハンゴンソウ(キク科)
多年草。北アメリカ原産で、園芸植物として明治中期に渡来。自然度の高い環境に繁茂し問題になっている。
緊急 / 特定
ドクゼリ(セリ科)
多年生の抽水~湿生植物。セリと似ており、有毒植物で誤って食べると死亡に至るケースもある。根茎はタケノコ状になる。
セリ(セリ科)
多年生の抽水~湿生植物。独特の香りがあり、昔から食用や薬用に利用されてきた。春の七草の一つ。
執筆者
鈴木 正樹(日本自然環境専門学校)
引用文献
- 大橋広好・門田裕一・邑田仁・米倉浩司(編)2017. 改訂新版 日本の野生植物1-5. 平凡社,東京.
- 角野康郎(著)1994. 日本水草図鑑. 文一総合出版,東京.
- 角野康郎(著)2014. ネイチャーガイド日本の水草. 文一総合出版,東京.
- 志賀隆・首藤光太郎・横川昌史・加藤将・稗田真也・倉園智広・山ノ内崇志(著)2018. 水草ハンドブック. 新潟大学教育学部. 新潟.
- 林弥栄・門田裕一 (監修) 2014. 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社,東京.
- 畔上能力 (編) 門田裕一 (監修) 2016. 山に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社,東京.
- Midorikawa, Shotaro, Kohtaroh Shutoh, and Takashi Shiga. “An easy method of identifying herbarium specimens of Najas minor and N. oguraensis (Hydrocharitaceae).” Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 71.1 (2020): 55-63.
- ※3 金田風花・志賀隆 2017. 新潟市域湖沼における水生・湿生植物相. In新潟市(編):平成28年度新潟市潟環境研究所研究成果報告書. Pp31-57,潟環境研究所,新潟.
- NPO法人 野生生物調査協会・NPO法人 Envision環境保全事務所 2021. 日本のレッドデータ検索システムhttp://jpnrdb.com/bunken.html(最終閲覧日:2023年2月6日)
- 環境省 2015. 我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)(最終閲覧日:2023年2月6日)
- 環境省 2021. 日本の外来種対策 特定外来生物等一覧(最終閲覧日:2023年2月6日)
- 環境省自然環境局 生物多様性センター いきものログ運営事務局 2023. いきものログ RDB図鑑(最終閲覧日:2023年2月6日)
- 新潟県(編)2001. レッドデータブックにいがたー新潟県の保護上重要な野生生物ー. 新潟県環境企画課自然保護係, 新潟.
- ※1 新潟市(編)2010. 大切にしたい野生生物ー新潟市レッドデータブックー. 新潟市環境対策課, 新潟.
- ※2 新潟市環境部環境政策課 2015. 潟デジタル博物館.(最終閲覧日:2023年2月6日)
- 新潟市潟環境研究所 (編) 2019. 越後平野における新たな地域学 みんなの潟学. 新潟市潟環境研究所, 新潟.
※種名配列は、国土交通省 河川水辺の国勢調査のための生物リスト 令和4年度生物リストに準拠し、コケ植物の分類は岩月(1991)、シダ植物はクリステンフスら(2011)、種子植物はAPGⅢ・Ⅳ分類体系(2009、2006)に基づいた。
写真提供者
【日本自然環境専門学校】イチョウウキゴケ、ヒメミズワラビ、ジュンサイ、オオカナダモ、コカナダモ、クロモ、コウガイモ、エビモ、ヒルムシロ、ヤナギモ、マツモ、カワヤナギ、アギナシ、トリゲモ、ササバモ、タコノアシ、ヒメシロネ、タヌキモ、イヌタヌキモ
【井上信夫氏】フサジュンサイ(ハゴロモモ)、ヒツジグサ、園芸スイレン、ノハナショウブ、ホテイアオイ、オランダガラシ(クレソン)、ムジナモ、サワギキョウ、オオハンゴンソウ、ドクゼリ
【水の駅「ビュー福島潟」】ヒシモドキ