新潟市潟のデジタル博物館

潟を学ぶ

外来種
変貌する潟の環境と生物相(1)

かつての越後平野は、信濃川や阿賀野川などの諸河川が自由に蛇行し枝分かれしながら流れ下って日本海に注いでいました。海岸砂丘によって行く手を阻まれた諸河川は下流部でつながりあい、各所に膨大な数の低湿地、潟を形作り広大な水系ネットワークを形成していました。魚介類や鳥獣は自由に往来し、各種の湿性植物が大繁栄して、さながら水の生きものたちの「楽園」でした。

このような自然環境は人々に恵みを与えるだけでなく、農地の十分な確保もままならず時に大氾濫して暮らしを破壊することさえありました。越後平野に暮らす人々は、営々と努力を重ねて低湿地を干拓し見事な水田に作り変えてきました。

この結果、ほとんどの潟が消滅しましたが、昭和20年代でも200以上の潟が残っていました(加藤,2017)。その後、機械力の導入によって干拓事業は急速に進み、潟は川や海と水門によって仕切られ、排水機場が整備されて乾田化が進み、越後平野の低湿地帯は広大な水田地帯へと変貌しました。無数にあった潟は、現在では砂丘湖を含めても16箇所を残すのみです。

水生動植物の生息空間が失われただけでなく、都市部にある潟では宅地化によって生活雑排水が流入してヘドロが堆積、農村部の潟では農薬や肥料の流入に伴う水質悪化や栄養塩過多によるアオコの発生が進みました。下水道施設の充実や浄化用水の導入によって、一時に比べて改善傾向にありますが、まだ多くの課題が残されています。

越後平野在来の生きものたちにとって、新たな問題が進行しています。人の手によって持ち込まれた強力な外来種が、生態系被害をもたらし、農業水産業被害など人の暮らしにも影響を及ぼしはじめています。

正保2年(1645年)越後国絵図 改写

希少化する在来種

生息環境の改変や侵略性の高い外来種の参入によって新潟市内の潟と周辺部で多くの在来種が減少し、中には絶滅してしまったものもあります。詳細は絶滅が危惧される生物種のリスト、新潟市レッドデータブック(新潟市,2010)にまとめられていますが、掲載種は植物188種、動物170種に上ります。

動物界では水中生活をする魚類が最も影響を受けており、日本海と往来する汽水・海水魚のほとんどすべて、回遊魚の多くが潟から姿を消しました。純淡水魚でもゼニタナゴは全県下で絶滅しました。植物界では水生植物がもっとも影響を受けており、新潟市内で絶滅した20種のうち15種を水草が占めています(志賀,2018)。

外来種と外来生物

「外来種」とは、本来の生息地以外の場所から、人為的に持ち込まれた生物を示します。外国産のものは「国外外来種」、日本国内産であっても他の地域から持ち込まれたものは「国内外来種」です。人の手で意図的に持ち込まれた生物のほか、稚魚の放流や苗木の移植に紛れ込んだり、荷物について非意図的に入り込むこともあります。持ち込まれた時期は問わず、記録に残っていない古い時代に移入された生物も含みます。
例えば、奈良時代に大陸から移入された大根について持ち込まれたというモンシロチョウや、江戸時代末期に持ち込まれたと考えられる西日本原産のナマズなども含まれます。
熱帯・亜熱帯系のグンバイヒルガオが、稀に県内の海岸に根付くことがありますが、海流に乗って種子が漂着したもので外来種には含まれません。自力で移動する渡り鳥なども同じです。

★「外来生物」
本来は「外来種」と同義語ですが、2004年に制定された「外来生物法」(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)では、国外起源の外来種に限られ、明治期以前に入り込んだ外来種は対象としません。

★「帰化種」「帰化生物」
侵入した外来種がすべて定着に成功するわけではありません。新たな環境で子孫を残して集団を存続することに成功した外来種を「帰化種」、「帰化生物」と呼ぶことがあります。

外来種が在来生態系や人の暮らしに及ぼす影響

外来種の移入の歴史は古く、人の移動に伴って様々な動植物が持ち込まれました。中にはヒガンバナやナズナ、エノコログサなどの文字が使われる以前の古代に渡来したといわれる「史前帰化植物」もあります。稲や芋類・豆類などの野菜や果樹、家畜のほとんどすべてが元は国外から持ち込まれたもので、コイやニジマスなどの国外原産の有用魚種も積極的に導入されてきました。外来動植物が人々の暮らしを支えてきたといっても過言ではありません。

外来種の導入は古くは食用目的が主でしたが、遊漁用や緑化材などとしての導入が増加し、近年は愛玩用の動植物の導入が急増しています。イヌ・ネコなどの飼育動物、園芸植物に加え、野鳥や爬虫類、淡水魚、昆虫類などの野生動物や、野生植物も持ち込まれています。
導入された外来種は人の暮らしに役立っている反面、一部は自然界に逸出して野生化し、在来生態系に被害を及ぼしたり、農林水産業などへの被害、人畜共通感染症などの健康被害を及ぼす事例も確認されています。特に甚大な被害を及ぼす外来種は、「侵略的外来種」と呼ばれることがあります。

生態系は、水や空気・光・栄養塩類などの無機的環境と生物群集(動植物や菌類などの多様な生物の集団)によって成り立っていますが、限られた空間に外来種が割って入ることによって、在来種の生活は次のような様々な被害を受けることがあります。

1.在来種を捕食する
2.在来種の食物や生息空間を奪う
3.在来種と交雑 遺伝子汚染をおこす
4.花粉や化学物質、病原体や寄生虫などによって健康被害をおこす
5.咬傷・刺傷など人体に健康被害を及ぼす
6.農林水産業に被害を及ぼす

外来種に関する法規制

外来種による被害を防ぐには、次の「外来種三原則」を守ることが大切です。

・入れない・・・外国や国内他地域から、悪影響を及ぼすおそれのある生物はもちこまない
・捨てない・・・外来種やペット動物、園芸植物を野外に捨てたり放したり移植しない
・広げない・・・野外に生息している外来種を、他の地域に移動したり、増やしたりしない

外来種の規制について、次のような法律、条例が定められています。

外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)

2005年6月1日施行以来、何度か改定が加えられてきましたが、2023年3月時点で、計156種が「特定外来生物」に指定されています。被害が疑われるが実態が分かっていない外来生物は「未判定外来生物」に指定され、届け出が義務づけられています。施行当初は「要注意外来生物」という区分がありましたが、現在は使用されていません。

  • 目的:外来生物(国外外来種)によって、生態系、人の生命・身体、農林水産業への被害が及ぶことを防止する
  • 規制:問題を引きおこす外来生物を「特定外来生物」に指定し、原則として飼育や栽培、運搬、輸入、販売が認められない
  • 罰則:違反すると個人の場合最高懲役3年以下、もしくは300万円以下、法人の場合最高1億円以下の罰金が課せられる
特定外来生物リスト掲載種数 2023年3月現在
ミシシッピアカミミガメとアメリカザリガニ 新たに「条件付特定外来生物」に指定

北アメリカ原産のこの2種は、当初から生態系への被害が確認されていましたが、すでに全国に広がり膨大な数が飼育されていました。特定外来生物に指定されることによって大量に遺棄されることが懸念されたため指定が見送られてきましたが、2023年6月1日から新たに設けられた「条件付特定外来生物」に指定されます。
ミシシッピアカミミガメは、1950年代後半から幼体のミドリガメが愛玩用に大量に輸入され、年間数十万~100万個体、多いときには200万個体も輸入されました(安川,2012)。手に余った個体が池や川に遺棄され、野生化していきました。
アメリカザリガニは1927年にウシガエルの餌として持ち込まれましたが(自然環境研究センター、2019)、家庭や学校などでも飼育されるようになって分布を拡大していきました。

「条件付」の条件とは・・・
・野外で捕獲したり飼育することができるが、放したり、販売は禁止
・飼育できなくなったら、無償譲渡するか責任を持って殺処分を行う

生態系被害防止外来種リスト(我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト)

2015年3月26日に公表されました。「外来生物法」が罰則を伴うのに対して、このリストは外来種についての国民の関心と理解を深めることを目的としています。また、「外来生物法」が国外外来種だけを対象としているのに対して、国内外来種も対象としています。掲載種は3区分され、対策の優先度によってさらに細かく区分されています。

・総合対策外来種 310種
中でも「緊急対策外来種」50種は、特定外来生物に匹敵する「緊急性が高く、積極的な防除が必要な」侵略的外来種。
・定着予防外来種 101種
未侵入または未定着の警戒すべき外来種。
・産業管理外来種 18種
野生化すれば問題あるが、農林水産業等で活用されているため逸出防止策を講じた上で飼育が許可される外来種。

生態系被害防止外来種リストのカテゴリー区分
(環境省ホームページ資料を改編)
世界の侵略的外来種ワースト100(2000年発表)

国際自然保護連合(IUCN)が発表した世界の侵略的外来種100種のリストで、日本の「特定外来生物」も含まれています。カイウサギやイエネコ、ヤギなどの家畜が野生化したものや、マイマイガやクズ、イタドリ、ワカメなどの日本から外国に進出して移植先で問題を起こしている種も含まれています(日本生態学会編,2003)。

日本の侵略的外来種ワースト100(2003年発表)

「世界の侵略的外来種ワースト100」を受けて、日本生態学会が「外来種ハンドブック」を刊行する際、編集に関わった各分野の専門家が選定した日本国内の侵略的外来種100種のリストです。日本の外来種対策の草分け的な資料で、2005年に制定される外来生物法への提言の意味もありました(日本生態学会編,2003)。

動物愛護管理法(動物の愛護及び管理に関する法律)

「世界の侵略的外来種ワースト100」を受けて、日本生態学会が「外来種ハンドブック」を刊行する際、編集に関わった各分野の専門家が選定した日本国内の侵略的外来種100種のリストです。日本の外来種対策の草分け的な資料で、2005年に制定される外来生物法への提言の意味もありました(日本生態学会編,2003)。

愛護動物は虐待が禁止されているだけでなく、野良ネコや野良イヌ、カメなどを殺処分したり、家畜を屠殺する場合には、苦痛を与えないような配慮が求められます。

特定動物を飼育するには都道府県知事または政令市の長の許可が必要で、施設の構造や規模、定期的な施設の点検管理などが規定され、マイクロチップや足輪による個体識別が義務づけられています。ペットとしての特定動物の飼養には許可がおりません。

動物愛護管理法に伴う罰則規定
「愛護動物」をみだりに殺したり傷つけると2年以下の懲役または200万円以下の罰金、虐待を行った場合は100万円以下、遺棄した場合には100万円以下の罰金が課せられる。
「特定動物」に関する違反には、個人の場合は6ヶ月以下の懲役または100万円以下の罰金、法人の場合は5,000万円以下の罰金が課せられる。

※愛護動物とは
イヌ、ネコ、飼いウサギなどのペットのほか、飼育下にある哺乳類や鳥類、爬虫類などの愛玩動物、ウシやウマ、ブタなどの畜産動物、実験動物も含まれる。
野生状態にあるノイヌやノネコ、ノヤギは含まれない。

※特定動物とは
・ライオンやトラ、クマなどのいわゆる猛獣
・ゴリラ、チンパンジー、ニホンザルなどの大型霊長類
・ゾウやカバなどの大型哺乳類
・ワシやコンドルなどの猛禽類、
・ワニやオオトカゲ、ニシキヘビなどの大型爬虫類
・コブラ、ハブ、マムシ、ヤマカガシなどの毒蛇
など、人に危害を加える恐れのある動物
野生、飼育、在来、外来を問わない。